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Collective Flow in Heavy Ion Collisions at CERN-SPS

日時: 1998/11/24 火 16:30-18:00
講師: 西村 俊二 氏 東京大学 原子核科学研究センター (CNS)
題目: Collective Flow in Heavy Ion Collisions at CERN-SPS
場所: 55S-04-06

格子ゲージ計算によると,高温・高密度状態においてはクオークが「閉じ込め」から解放され,クオーク・グルーオン・プラズマ (QGP) と呼ばれる新しい物質相に転移すると予言する.そこで,世界最高エネルギーの重イオン加速器 (CERN竏担PS) を利用した鉛+鉛衝突実験における QGP 探索のプロジェクトがスタートした.

最近,鉛ビームの引き出しの成功,実験の測定精度の向上,高統計のデータ収集が可能になり,(a) M_{\mu+\mu-} 測定での J/Ψ粒子の生成量の異常な抑制,(b) M_{\mu+\mu-} 分布におけるρメソン近辺の収量の異常な増大という非常に興味有る観測結果が報告され,QGP シグナルではと話題を呼んでいる.また,最近の理論計算で,QGP 生成の際の高温・高密度状態において状態方程式のソフトニング効果が起こり,ハドロン粒子スペクトルにも異常が現れるのではと予測している.そこで,粒子生成過程における温度・密度・圧力分布に敏感であると考えられる集団運動 (フロー効果) の観測が非常に有効な手段であると考えられている.

1996 年,WA98 実験において我々が開発した高性能飛行時間測定器と高運動量分解能を特長としたスペクトロメータを建設し,高多重度環境における粒子識別したハドロン粒子の運動量分布の測定に成功した.これまでの原子核同士の正面衝突の事象に関する測定結果によると,π/K/陽子と質量の増加に伴い,横運動量分布がより平らになるということが報告されている.これは,衝突点から外の方向に等方的な膨張運動が存在する証拠であると話題になった (Radial-Flow).ここで,最終的に冷却され放出されたハドロン粒子から衝突初期の高温・高密度状態の情報を引き出すためには,より詳しい観測と定量的な検討が必須といえる.そこで我々は,あらゆる衝突係数での集団連動の変化に着目した別のタイプの集団運動の観測に成功した.ここでは,その最新の解析結果について報告をする.

まず,標的核周辺を覆うプラスチック・ボール検出器により各衝突事象ごとの粒子識別した陽子・重陽子の放出角を詳しく調べた.その結果,ある一方向に集団的に放出されるという現象が CERN-SPS のエネルギー領域で初めて観測できた (Directed-Flow).また,πはそれとは逆方向に放出されるという傾向があることが明らかになった.それらの集団連動は標的核(入射核)のラピデイティー領域において特にはっきりと観測された.そこで,逆にその集団運動の方向の情報を利用することで,原子核衝突における反応平面 (衝突係数の方向) を決め,最も高温・高密度となるであろうと予想されるミッド・ラピデイティー領域を覆うスペクトロメータとを組み合わせた解析を行った.すると,驚くべき事に 1GeV のエネルギー領域において粒子が反応面に対して垂直に放出されていたのに対し,10GeV から 160GeV とビームエネルギーが高くなるにつれ,反応平面上に水平に放出されるという興味有る結果が得られた (Elliptic-Flow).さらに,HBT 観測法により 2粒子相関関数が,その反応平面に対してどう影響するのかを調べたところ,反応平面に対する放出方向に強い角度依存性があることが解ってきた.この解析は,初めての試みであり,今後の生成粒子の空間と横運動量の相関に関する新しい知見が得られると期待できる.以上の結果を,カスケード・モデル (RQMD/VENUS) と比較し,より詳しい物理的な解釈を進める.

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