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マクロに異なる状態の重ね合わせの可視化 

日時: 2007/06/26 火 16:30-18:00
講師: 森前 智行 氏 東京大
題目: マクロに異なる状態の重ね合わせの可視化 
場所: 55N -02-応物・物理会議室
備考:はしかによる大学構内に入構禁止のため,セミナーの日程が5月22日から変更となりました。
量子光学や量子カオス系等の少数自由度系の量子状態はWigner分布関数や伏見表示等で可視化をすることができ、状態の形を直感的に理解することができるが、固体や量子計算機等の量子多体系の状態を可視化する方法はまだほとんど無い。量子多体系にはマクロに異なる状態の重ね合わせや多地点間エンタングルメント等の面白い量子的性質が多くあり、それらの理解の為にも、量子多体状態を可視化する方法があれば便利である。我々はいくつかの(一般には非可換な)マクロオブザーバブルの「粗視化された準同時確率分布」を用いて量子多体状態を可視化する方法を考えた[T. Morimae and A. Shimizu, PRA 74 052111 (2006)]。量子多体状態が与えられた時、適切なマクロオブザーバブルをいくつか選び、その粗視化された準同時確率分布をプロットするとその量子状態を可視化することができる。特に、その状態がマクロに異なる状態の重ね合わせを含む時、その重ね合わせの様子を可視化することができる。適切なマクロオブザーバブルは、系のサイズ程度の大きさの行列を対角化するだけで効率的に求めることができる。可視化の具体例として、磁性体のモデルである2次元XYモデルと2次元Heisenberg反強磁性体の厳密基底状態および量子計算の代表的なアルゴリズムであるShorの素因数分解アルゴリズムとGroverの検索アルゴリズムの途中にでてくる状態に含まれているマクロに異なる状態の重ね合わせの形を可視化した。また、この可視化の方法を用いれば、量子測定のモデルで被測定系と測定器がユニタリ時間発展していってマクロに異なる状態の重ね合わせになっていく様子なども可視化できる。この粗視化された準同時確率分布は、Wigner分布関数のように負の値もとり得る。しかし、測定精度が有限なマクロ系は古典論で記述できるので、粗視化の特徴的な幅を十分大きくすればこの粗視化された準同時確率分布は非負になる(つまり同時確率分布になる)はずである。実際、いくつかの状態に対してたしかにそのようになっている。特に、系のサイズをNとするとき、粗視化の特徴的な幅をO(N)にすると、Nを大きくするにつれてこの粗視化された準同時確率分布は非負になる傾向がある。粗視化の特徴的な幅がO(N)というのは相対誤差が測定レンジに依存しないということなので、リーズナブルである。しかし、一方で、粗視化の特徴的な幅がO(1)やO(\sqrt{N})の場合にはNを大きくしても粗視化された準同時確率分布は非負にならないような場合がある。つまり、単に系のサイズを大きくするだけで非可換なマクロオブザーバブルの同時確率分布が得られるだろうという素朴な考えは必ずしも正しくなく、粗視化をきちんと考えなければならないのである。

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