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Interplay between soft and hard hadronic components in relativistic heavy ion collisions

日時: 2003/09/16 火 16:00-17:30
講師: 平野 哲文  氏 理研BNL研究センター
題目: Interplay between soft and hard hadronic components in relativistic heavy ion collisions
場所: 55号館S棟4階10号室
 ブルックヘブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory, BNL)における相対論的重イオン衝突型加速器(Relativistic Heavy Ion Collider, RHIC)が稼動し始めてから3年が経つ。この間に重イオン同士の衝突はもちろんのこと、核子同士の衝突、重陽子と重イオンの衝突を含め、多くの実験結果が報告されてきた。その中でも、jet quenching[1]の発見は重イオン衝突の物理が新たな局面を迎えていることを意味している。

 "Jet quenching"の最初の例はPHENIXグループにより得られた大きな横運動量を持つパイオン生成の抑制[2]である。この実験結果は高(粒子)密度物質を通過するパートンのエネルギーが損失されているという描像と矛盾しない。またSTARグループは、大きな横運動量を持つハドロンの角度相関関数を測ることにより、周辺衝突において観測された前方-後方の粒子相関が、中心衝突に行くにしたがって見えなくなってくることを発見した[3]。この実験結果もパートンの2体衝突によって生成された二つのジェットのうちの一方が高密度物質に吸収(または散乱)されたことを示唆している。最近の重陽子-重イオン衝突反応では、逆にハドロン生成量の抑制が起こらず前方-後方の粒子相関も残っていることが確認され[4]、重イオン同士の衝突でのみ「何か新しいもの」が出来たということがいえる。このように、RHICのようなコライダーのエネルギー領域に入ることにより、大きな横運動量を持つハドロンの物理量が重要になってきている。言うまでもなく、高密度物質であるクォーク・グルオン・プラズマ(Quark Gluon Plasma, QGP)の理解に向けて、これらの実験結果を詳細に理論的に解析することが重要である。

 この高エネルギーのジェットと高密度物質との相互作用を現象論的に解析するために、我々はQGP流体とその流体素片の中を顕に通過するパートンとを組み合わせたモデルを構築した(hydro+jetモデル)[5]。相対論的重イオン衝突反応によって熱平衡状態のQGPが出来たと想定すると、この高密度物質は周りの真空に向かって膨張をしながら冷却し、再びハドロンに戻る。この動的な過程を現象論的に記述するために相対論的流体モデルによる数値シミュレーションを行う。一方、重イオンの衝突時には熱平衡に関与しないような大きな横運動量を持ったパートンも生成される。これらのパートンはQGPの中を通過する際にランダムウォークをしながらエネルギー損失を起こす。我々のモデルは、実際のQGP流体のシミュレーションと同時にこのパートンのダイナミクス(重イオン衝突による生成、QGP中の伝播とエネルギー損失、ハドロン生成)も記述する。

 通常の相対論的流体モデルの計算では初期条件に熱平衡物質の存在を仮定し、ラピディティ分布のようなグローバルな物理量を再現するように初期時刻とその物質の分布の絶対値や形を適当に選ぶ。しかし、この方法はすでに測られている実験結果を最大限に用いるために、まだ行われていないLHC (Large Hadron Collider)のような実験に対する予言をすることが難しい。特にLHCのような超相対論的な重イオン衝突においては、グルオン生成がドミナントである。そこで今回は、衝突初期段階に対して良い記述を与えると期待される"Color Glass Condensate (CGC)"の描像[6]を考慮した。この描像に基づき得られたグルオン分布[7]に対して、ある時刻で熱平衡を仮定することにより、流体モデルの初期条件とした。一方、大きな横運動量領域における熱平衡に関与しないパートンはイベントジェネレータPYTHIA[8]を用いて生成した。これらのパートンがQGP流体の内部を通過する際のエネルギー損失の式については、QCDにおけるLPM (Landau-Pomerunchuk-Migdal)効果を考慮に入れたGLV公式[9]を用いた。

 我々はhydro+jetモデルを用いて、まずはRHICのエネルギー領域において、中心ラピディティから前方後方ラピディティ、横運動量の小さな領域から大きな領域まで、様々な物理量を解析した[10]。特に、流体描像に起因する寄与と摂動論的QCDに起因する寄与がせめぎ合う横運動量領域で、(a) 陽子とパイオンの粒子比N_p/N_piが1になる、(b) 陽子生成が抑制されていないように見える、(c) 陽子の楕円型フローがパイオンの楕円型フローよりも大きくなる、といった陽子に関わる興味深い実験結果を自然に記述することができた。また超高エネルギー重イオン衝突に対して良い記述を与えると期待されるCGCが、RHICのエネルギー領域においても妥当かどうかを議論する。更にこのモデルを用いて、衝突エネルギーをLHCまで引き上げたときの粒子分布の予言も行う(よてい)。

[1] 最近のレビューはM.Gyulassy et al., nucl-th/0302077.
[2] K.Adcox et al., (PHENIX), Phys.Rev.Lett.88,022301(2002).
[3] C.Adler et al., (STAR), Phys.Rev.Lett.90,082302(2003).
[4] PHENIX, nucl-ex/0306021; STAR, nucl-ex/0306024; PHOBOS, nucl-ex/0306025; BRAHMS, nucl-ex/0307003
[5] T.Hirano and Y.Nara, Phys.Rev.C66,041901(2002).
[6] 最近のレビューはL.D.McLerran, Lect.Notes Phys. 583,291(2002).
[7] D.Kharzeev and E.Levin, Phys.Lett.B523, 79(2001).
[8] T.Sjostrand et al., Comp.Phy.Commun.135,238(2001).
[9] M.Gyulassy, P.Levai and I.Vitev, Nucl.Phys.B571,197(2000);B594,371(2001).
[10] T.Hirano and Y.Nara, Phys.Rev.Lett.(in press); nucl-th/0307015; nucl-th/0307087.

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