Japanese SET NAMES utf8

QGP Fluid, Hadron Gas, and Deconfinement at RHIC

Date: Thursday, September 29, 4:30pm-6:00pm
Speaker: Dr. Tetsuhumi HIRANO Columbia Univ.
Title: QGP Fluid, Hadron Gas, and Deconfinement at RHIC
Room: 55S -02-4th Conference Room

2005年4月18日にフロリダで開催された米国物理学会にて、RHICにおいて完全流体的な振る舞いをする物質が作られたとの報道発表がなされ[1]、世界中のメディアがこのエキサイティングな話題を取り上げた。そもそもクォーク・グルーオン・プラズマ(quark gluon plasma, QGP)は、通常はハドロン内部に閉じ込められたカラーの自由度を持つ粒子が、量子色力学の漸近的自由性によって、極限状態ではその閉じ込めが破れてできた物質と考えられてきた。その意味では、クォーク・グルーオンの多体系は、その存在の提唱以来30年近く、「弱く相互作用するパートンのガス(weakly coupled QGP, wQGP)である」という描像が通説であった。しかし、系の集団的な振る舞いの様相と密接に関連のある物理量「楕円型フロー(elliptic flow)」を解析してみると、粘性の効果を無視した完全流体モデルで実験結果を非常に良く再現する。ガスの振る舞いを記述するボルツマン方程式と液体を記述する流体方程式の関連に着目すれば、素朴にはBoltzmann方程式における粒子間の平均自由行程lambda=1/sigma rho (sigma: 散乱断面積、rho: 粒子密度)がゼロの極限、すなわち、ある固定された粒子数ならば、散乱断面積が非常に大きな極限が流体力学である。運動学的には、ずれ粘性はlambdaに比例することから、lambda=0がまさに完全流体を表している。このRHICの驚くべき実験事実を契機に、RHICで作られたパートンは強く相互作用している(strongly coupled QGP, sQGP)という認識に至った。

本研究では、このプレスリリースの根拠となった実験事実、及び、その現象論的解析に焦点を絞り、RHICで作られた物質の性質をより明確に理解することを目標とする。結局、RHICの実験とその理論的解析から何が分かったのだろうか?我々の主張は以下にまとめられる。

  1. ハドロン相において実験により否定されている化学平衡を仮定した流体モデルシミュレーションを行うと、この非現実的な仮定を最大限活用して楕円型フローや横運動量分布といった実験結果を「偶然」再現することが分かった。プレスリリースの根拠となった解析も含め、ほとんどすべての流体シミュレーションが簡単のためこの仮定を採用している。そのため、数十年にわたって世界中で行われてきたこの分野の流体数値シミュレーションの計算結果が全く無意味であることを示す("No-Go theorem")[2]。
  2. 実験結果を「正しく」再現するためには、高エネルギー重イオン衝突において生成された物質は「完全流体的な振る舞いをするsQGPのコアとその周りを取り囲む散逸的なハドロン相のコロナ」という描像でなければならない[2]。
  3. 2.の描像に基づき、QGPは流体力学、ハドロン相はBoltzmann方程式で取り扱うハイブリッド的な輸送モデルを作成した。このモデルを用いて、これまで単なる完全流体モデルでは再現できなかった楕円型フローのラピディティ依存性を解析し、(2)の描像が確かに成り立っていることを示す[3]。
  4. 系が流体的に振舞うか、それともガス的に振舞うかの良い指標となるのが、ずれ粘性とエントロピー密度の比eta/sである。この比(dimensionless)が小さい場合、系は流体的に振る舞い、大きい場合、系はガス的に振る舞う。特にガス的な振る舞いの場合、散逸の効果が重要となる。あるモデル計算によれば、ずれ粘性etaは温度の関数として単調に増加をする。一方、量子色力学の第一原理数値計算でも示されているように、エントロピー密度sは相転移温度近傍で急激に増加をする(カラーの閉じ込めの破れ, deconfinement)。結果的に、それらの比eta/sは相転移温度を境に急激に減少する。このことは、(2)の描像がまさにエントロピー密度の急激な増加、すなわちdeconfinementの現れであることを示唆している[2]。

[1] http://www.bnl.gov/bnlweb/pubaf/pr/PR_display.asp?prID=05-38 
[2] T.Hirano and M.Gyulassy, nucl-th/0506049. 
[3] T.Hirano, talks at Quark Matter 2005 and workshop on QGP thermalization. 

item SEMINARS/COLLOQUIA 2024 2023 2022 2021 2020 2019 2018 2017 2016 2015 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997